京都について
京都の空はどうも柔らかい。
綿矢りさの小説「手のひらの京」の書き出しだ。
京都で暮らし始めて二年と少し経った今、あらためて思うのは、この一文がいかに過不足なく京都という街を表しているかということだ。
ここで過ごした日々を振り返りながら、京都が見せてくれた色んな表情を思い出してみると、確かに空はいつも柔らかかった。



空に限らず、この街の景色は特別だと、心の底から思う。
必要に追われてではなく、ただ住みたいからという理由で賃貸の契約を済ませた二年前から、その気持ちは今日まで冷めることなく続いている。


暮らし始めた当初は、ただ漠然と京都が好きだった。
二年目を終えた今は、京都への気持ちを丁寧に拾い集めて、好きな理由を自分の言葉として編むことができるようになった。
せっかくだから、ひとつの節目として私も京都を定義してみたい。

二年間暮らしてみた感想を一言で表すと、こんなふうになる。
「京都は奥を見つめて歩く街」
恐竜博物館で万博のスタンプ押してきた
Day1 熊本~日田 五感で阿蘇を味わう絶景ツーリング
秋が来て、空の色が柔らかくなった。旅に出たい。選ばれたのは熊本でした。

熊本は西日本のほかの都市と同じく、路面電車の走る街。
道路に線路が引かれている景色はここに暮らす人たちにとっては日常のものでも、遠くから来た自分にとっては新鮮に感じる。

熊本市街をまっすぐ東に抜けていく。だんだん建物が低くまばらになるにつれて、空が広くなる。秋の雲は風の形をはっきりとうつしている。

関西とは土の匂いが少し違う。匂いを言葉で表現することは難しいけれど、あえて試みるなら、もともとすごく深い場所にあった土の匂いという感じがする。
両脇を森に挟まれた坂道をのぼって高度を上げる。見下ろした先の高速道路は新しい道というだけあって地形を無視して敷かれている。
阿蘇市に入った。最後のカーブを抜けると急に世界が広くなった。


緑は静かだ。海と違って波のざわめきが届くことはない。地形がひらけているから、風が複雑な渦を巻く前にほどけていき、笛のような高鳴りも起こらない。窓もエンジンもないことにうんざりする瞬間はあるが、自然の音に心を寄せられるのは自転車ならではだと思う。

すすきを透かして遥か向こうの田畑を見下ろす。まだまだ高度を上げていく。
サイクルコンピューターはあとどれだけの坂道が待っているかを可視化してくれる。果たしてこれは親切な機能と言っていいのだろうか。

尾根にそってしばらく走ると、大観峰の駐車場に到着した。休憩施設が併設されている。車やバイクの数がすごい。

大観峰から阿蘇のカルデラを一望する。野焼きによって維持されてきた草原。雄大な大地の躍動。オープンワールドのRPGをプレイしている気分になる。
阿蘇のこだわりソフトを食べてみた。ソフトクリームって、お出かけした先でしか食べない気がする。
ここからは大分県日田市に向けてダウンヒル。

交差ヴォールト風の屋根をもつガソリンスタンドや切り立つ斜面に貼り付いた温泉を横目に、位置エネルギーを消費していく。
そして日田市に到着!
重伝建に指定されている豆田町を有する日田市は、四方を山に囲まれた小さな街だ。

具体的には、コスモスがあるくらいの規模の街。
陽が沈むのが早くなった。今日はここでおしまい。
明日はふたたび阿蘇を経由して熊本市を目指すことにする。
走行距離:109.2km
獲得標高:1300m

Day2 日田~熊本 標高1300mのワインディングロード
まだ眠りから覚めない街を後にする。よく冷えた朝だった。手元の温度計によれば13℃しかない。少しだけ冬に近い匂いがした。

日の出から間もない朝日は角度が浅い。坂道を越える瞬間だけまぶしさが目を射してきて、わずかに残った眠気を晴らしてくれる。追い越していくのはこれから農作業に向かう軽トラくらいで、田舎道には自分以外に誰もいない。ここに住む人たちの日常に自分だけの非日常が入り込む感覚が強くなるのは、早朝のわずかな時間に限られたことかもしれない。

もともと急ぐつもりはない。空気抵抗は速度の2乗に比例して大きくなるので、2倍頑張ったとしても2倍速くなるわけではない。




景色が良すぎて何度も立ち止まってしまうから平均速度がみるみるうちに落ちていく。標高1000mのそよ風が心地いい。体からの発熱量と外気による冷却量がちょうどつり合っている感覚がある。
何度経験しても、峠を越えるときはテンションが上がる。登っている最中はどうしてこんなことをしているのだろうと思わなくもないが、登り終えた瞬間にすべてが吹き飛んでしまう。こんなに高いところに自分の体力だけで来たという達成感は他に代えがたい。

甘めの出汁とお肉のうまみが身に染みる。おいしい。









今日の夕飯は商業施設「SAKURA MACHI」内にあるご当地回転寿司店「天草 牛深丸」にした。
hero-umi.com
いつからか自転車旅ではご当地回転寿司チェーンを味わうことがひとつのテーマになっている。美味しくて写真を撮るのも忘れてしまった。
明日につづく。
Day3 熊本~博多 小さな秋と旅の終わり


本当は昨日の夕方に熊本城を訪れる予定だったが、閉門時間に間に合わなかった。今日の開門を待つ手もあるのだけれど、それでは帰りの新幹線に遅れてしまう。仕方ない。この街を再訪する理由ができたと思うことにしよう。
学生時代の自分は、社会人になれば自転車で気ままに旅をすることも難しくなるだろうと考えていた。どうやらそれは杞憂だったらしい。確かにまとまった休みが取れる時期は限られるけれど、三連休程度ならその気になればいつでも作ることができるし、普段の土日だけでも旅はできる。もっと言えば、日帰りであってもペダルを漕いだ瞬間から冒険は始まっている。この縮尺が自転車のいいところだと思う。
オレンジロードと愛称のついたこの道は街灯の傘がみかんの形をしている。




3日目は移動日の性格が強くなった。それはさておき無事に帰ってこられてよかった。
Day0&Day1 網走~知床斜里
網走まで
待ちに待ったGWがはじまった。
その初日。
曇り空ながらも賑わいを見せる京都駅の隅で輪行準備を済ませ、大阪方面へ向かう電車に乗り込んだ。



新大阪、千里中央でそれぞれ乗り換え、モノレールから北摂の街を見下ろしてみる。

雨は降っていない。
モノレールの運賃が高いのは、その半分が景色代だからだそうだ。
伊丹空港に到着する。今回は安かったので真昼の便を選んだ。

北海道まで約2時間。

新千歳空港に到着!


空港から千歳市街までの5kmほどを走り、本日は終了。
翌朝、再び自転車を分解し、千歳駅から札幌駅まで移動する。




ようやくここから網走へ向かう旅がはじまる。

特急に揺られること5時間、ついに網走に到着した。


ここ網走は去年の北海道旅のゴール地点だった。
去年は札幌~宗谷岬~網走の順に海沿いを走行したので、今年も海岸線を時計回りになぞってその続きを走ろうという計画だ。
GW2日目の正午過ぎ、閑散とした網走駅前から手のひらサイズの冒険がはじまった。
網走~知床斜里
今日の目的地である斜里町は、網走から南東方向へ約40kmの場所に位置している。
日没まで5時間残されているので、寄り道する余裕は十分にある。詰め放題のお菓子売り場に立った気分で地図を開く。
まずは北へ20km進んだ場所にある能取岬を目指すことにした。
市街を抜けると、いきなり景色が開けた。

湖畔ではたくさんの人たちが腰を丸め、熱心に浅瀬を掘り返している。


ひとりやふたりではない。路駐の列がずっと先まで続くくらい、本当にたくさんの人たちが潮干狩りを楽しんでいた。
アサリからしてみれば、たまったものじゃないだろうなと思う。


空の色は重い。光が差してこないから、今が何時なのかわからなくなる。
5月の網走はまだ冬の色をそこここに残している。
1時間ほど走って、能取岬に到着した。


そこから先は南東方向へ進路を切って、ひたすら進む。


しゃり、しゃり、つくし。

これがおしゃれカフェで有名な北浜かあ。(違う)

布の両端をぎゅっと中央へ寄せたみたいに、大地が波打っている。


広さには二通りあると思う。
ひとつは、東京や大阪みたいに密度の高い街の広さ。実際、都会で暮らしていると、基本的な生活は徒歩圏内で完結するから、隣町へ行く必要がない。都会は、全体を見渡すことができないという意味でどこまでも広い。
もうひとつは、北海道のような物理的な広さ。田舎町で育った自分には後者の広さの方がよくなじむ。


道路沿いにお店が増えてきて、斜里町の中心部に到着。

夕暮れの街を少しだけ散策した。



走行距離:76km
獲得標高:384m

2日目につづく。
komachan-kurage.hatenablog.com

